Mangefoldigheds plejehjemの見学会に参加 

2013年10月

 

入居者の文化的多様性を重視する新しい試み

 

 

 

 デンマーク初の「Mangfoldigheds plejehjem」(多様性対応老人ホーム)がコペンハーゲン市に誕生しました。平たく言えば、あらゆる民族の老人を積極的に受け入れるホームということができるでしょう。

 私たちクラブジャパンは、コペンハーゲン市が外国人を積極的に受け入れる養護老人ホームを作る計画を知り、1年余り前からデンマーク少数民族支援グループの一つとして市の担当係等と連絡を取ってきました。今回、Amager にもともと存在した市営老人ホーム兼ケアセンター「Peder Lykke Centret」が新たに「多様性対応老人ホーム」として生まれ変わり10月28日に見学会は開かれるとの通知を受け、二人のメンバーが視察して参りました。

 

Peder Lykke Centretの

多様性対応老人ホームとしての特徴

 

 

 介護職員は他国出身者がかなり多く、またデンマーク以外の文化風習や多様性に対処するよう教育を受けている。

 自室内あるいは建物の一角で出身文化や宗教に関係するお祈り等をすることができる。

 食事は居住者の要望に沿うよう、最大限の努力がなされる。キッチン従業員も非常に多くの国の人間で構成されており、多様な要望に沿えるよう教育されている。

 建物内で(他の居住者に迷惑が及ばない限り)出身文化にちなんだ行事(お祭りなど)を催すことができる。

 

 見学会に参加したメンバーの感想は、まず第一に、とても雰囲気が良いということでした。職員も居住者も皆さん表情が明るく、人間関係がよさそうに見受けられました。また、個人の自由が最大限認められているのを感じました。例えば喫煙も自室内では認められていて、そのせいで廊下なども若干煙草のにおいがしますが、それも「人の家」という雰囲気を添えているような気がしました。一番大事なのは「多様性の尊重」が規則にうたわれているだけでなく、実際に感情レベルで受け入れられることですが、この分なら、今後異国出身の居住者が民族衣装で歩きまわったり、ゲストを招いて料理を外から持ち込むなどしても、快く受け入れられるだろうという印象です。

 

 ホーム内を見せてくださった職員の方に、クラブ・ジャパンからの質問をいくつか投げかけてみました。

 

1.日本人が仮に今この施設に入りたいと希望した場合、入居は可能ですか?その場合どのような条件がありますか?

 

 返答:コペンハーゲン市に籍があり、市の”Visitation” の係の職員によって老人ホームに入ったほうが良いと判断された人であれば誰でも入居する権利があります。当施設に連絡いただき、ウェイティング・リストに名前を載せてください。入居には優先順位等はなく、よほどの例外を除いて、早い人順に入れるようになっています。待ち時間は、時と場合によって大きく変動するので、お約束はできません。

 

2.日本人が入居した場合、食事等の対応はどれだけしていただけるのでしょうか?

 

 返答:要望に沿って、たった一人にでも毎日でも日本食を出せるようにするつもりです。

 

3.今まで一般老人ホームだった貴施設が今回、特別に多文化多様性に対応するホームになるにあたって、コペンハーゲン市から受ける特別な予算(あるいは援助金)はどのくらいですか?

 

 返答:特別予算は全くつきません。今までの予算と同じ中でやりくりして行きます。

 

 

 上記の答えにもあるように経済的な制約があるため、文化の多様性に対応したケアにもある程度限度が生じます。例えば、一人の異文化出身入居者のために料理人を新たに雇って毎食提供したり、その言語ができる介護職員を雇って付き添わせることは無理です。

  

  

 そもそも根本的に、多様性対応老人ホームを現実化する際、市には新たに施設を作る余裕が無かったため、既存の一般老人ホームであった施設の運営を変更しただけなので、元からいる居住者やウェイティングリストに載っているデンマーク人が未だに圧倒的大多数であり、また、公平を期するため、デンマーク人の既存居住者を外に移したり、ウェイティングリストの中から外国人だけ積極的に入居させるといった特別な措置も講じられません。

 ですから、今後どれだけ異国出身者が入居してゆくかは未知数ですし、ウェイティングリスト制をとり続ける以上、同じ国出身者が近くにまとまって住める等の配慮も全くされません。便宜上、主要使用言語はデンマーク語(あるいは英語)ですし、要望のない限りは食事も、大多数であるデンマーク人に合わせた内容が維持されます。

 

 それでは一体、一般老人ホームとは何が違うのでしょうか。端的にいえば、「受け入れ体制があると公言したこと」が大きな違いです。今現在異文化出身居住者はたった1人(アラブ人)と聞いていますが、ひとりひとりの要望に耳を傾け生活習慣や娯楽、食事をなるべく要望に沿った形で提供する、その用意があるということです。具体的にいうと介護のガイドラインを多文化対応型に作り直したり、職員に教育/訓練を施したりということが行われており、あとは、新しい異文化出身入住者が出次第、臨機応変に善処するというわけです。

 

 日本人のように、デンマークに少数しかいない民族の場合、せっかく多様性対応老人ホームに入れても、周りに日本語の通じる人は全くいない、という状況に変わりないでしょう。

 ただ、自分が大勢のデンマーク人の中でたった一人の日本人であるというより、いくつもの国の出身者が集まった中のたった一人の日本人であるほうが自己表現しやすいということはあるでしょう。みんなの言っていることが理解できないと口に出したり、一人だけ別なものを食べたいと言ったりすることが「悪いこと、迷惑なこと」でなく「自然なこと」として受け入れられる環境に住めたら、それだけでも毎日の生活がずっと気楽になるかもしれません。

  

 このコペンハーゲン市の新たな試みを、期待外れとみるか大きな前進とみるかは、私たち一人一人の評価次第とも言えるでしょう。

 <報告:高橋 ゆり子>

 

 

 

 ※ なお、この記事の施設についてもっとお知りになりたい方は、Klub Japanに直接お問い合わせください。質問の仲介や見学付添い等のお手伝いもいたします。

市営養護老人ホーム

Peder Lykke Centretの概要

 

 

住所:Peder Lykke Vej 65 2300 København S 最寄り駅: DR Byen (メトロ)

 

全144室(うち夫婦用アパートメントが4室)が6つの居住区画に分かれています。

 

一室の広さ(個室)は約22m2、バスルーム付き。

 

朝、昼、夕食および午後間食付き。食事は食堂で定刻にサービスされる。

 

個室での食事もむろん可。食事時間外も、いつでもお湯を沸かしたり食べ物を温めたりしてくれる。

 

外出(昼間)、ゲストの訪問は自由。

必要があれば24時間いつでも介助を頼める。

 

 

 

Klub Japan が考える

老人ホーム構想

 

 

高齢に達しても住み慣れた自分の住居で、できるだけ自立した生活を送りたいと思うのは誰にでも共通しているでしょう。しかし、場合によってはどうしてもそれが困難になることが考えられます。

 

私たちデンマークに住む日本人にとって大変不安に思うのは、デンマークの老人ホーム(plejehjem)に入れば、当然ながら周囲がデンマーク人だけという環境になる点でしょう。私たちは果してその中に自然と溶け込むことができるでしょうか?

 

ここから出てくる私たちの願いは、デンマークの老人ホームの一角にでも、日本人専用のコーナーを設置してもらえないものか、という希望です。そこには日本人スタッフがいて、日本語での会話が可能であり、食事も少なくとも一食は日本食が食べられたら、と思いませんか?

 

しかし、そんな私たちの希望をはたしてデンマークは聞いてくれるでしょうか? それが困難なことは簡単に想像できます。現在それが実現しているのは、ユダヤ人の例だけのようです。資金力・政治力を持った彼らのようには私たちの声は届かないでしょう。

 

それでも私たちは少しずつ実態調査から始め、実現の夢を追って活動してみたいと思います。その原動力となるのは、一人でも多くの賛同者、協力者の努力だと信じます。